大判例

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大阪高等裁判所 昭和45年(ラ)379号 決定

〔主文〕原審判を取消す。

事件本人墨田裕子(昭和三七年一〇月二〇日生)の親権者を父である相手方から母である抗告人に変更する。

〔理由〕一 本件抗告の趣旨は、主文と同旨であり、理由は別紙記載<略>のとおりである。

二 当裁判所は、次のとおり判断する。

記録により認められる本件の事実関係は、原審判一枚目表七行目から同六枚目表一二行目までの記載と同一であるから、ここにこれを引用する。

右認定の事実(以下本件事実という。)によれば、事件本人に対する愛情の程度、教育する能力、経済能力、生活環境等を総合した場合、親権者たる適格性において、抗告人と相手方との間にさして優劣の差はないから、抗告人が事件本人を監護教育している現在の状態は是認すべきであり、相手方に事件本人を引取る気持がない点からしても、この状態は恒常性を有するものと考えられる。そうすれば親権者と監護権者とを別異にすべき特段の事情の認められない本件においては、次の諸点を考慮した上、事件本人の親権者はこれを抗告人と定めるのが相当である。

(一) 抗告人は、事件本人の氏を変更して抗告人と同一にしたいと考えているが、右氏の変更につき相手方の代諾を得ることは望むべくもないので右の考えを実行する手段として本件申立をした。さらに将来抗告人と坂本芳男とが結婚した場合には、事件本人を右坂本の養子にすることも考えておりそれも亦本件申立の動機となつている。本件記録によれば、以上の事実が認められるのであるが、子と子の監護者とが氏を同じうすることはもとより望ましいことであるし、本件事実によれば、事件本人が坂本芳男の養子となることは事件本人にとり不利益であるとはいえないから、右認定の本件申立の動機は是認すべきである。

(二) 本件記録によれば、相手方は、将来事件本人が坂本芳男から性的暴力を受けるおそれのあることを親権者を変更に同意しない理由の一にあげていることが認められる。しかし、調査の結果によれば、現在そのような徴候は認められないし、そもそもこの問題は、監護者を定めるに当つて考慮すべき事柄であつて親権者の決定とは関係がないから(事件本人の監護を抗告人がする以上、親権を相手方に留保したからといつて防止しうる事柄ではない。)、これを以て親権者変更を拒む理由とすることはできない。

(三) 事件本人は、その頃相手方に養育せられていたのであるが、抗告人は、昭和四四年六月親権者を変更しない約束で相手方から事件本人の引渡を受けた。又、本件申立に先立つこと二ケ月余である昭和四四年一一月二二日抗告人相手方間において親権者の変更を求めない趣旨と解される調停が成立した。以上の本件事実によれば、その後著しい事情変更の認められない本件において、あえて親権者の変更を命ずることは、当事者の不信行為を助長し法的安定を害することになるのではないかとの懸念を生ずる。しかしながら、右不信行為があつたかどうかは抗告人相手方間の責任の問題にすぎないから、それによる不利益を事件本人に帰することは許されない。この見地からすれば、本件申立は、申立権の濫用に当る事情が認められない限りみだりにこれを排斥すべきでなく、且つ本件申立以前の抗告人の右行為は、それがなされる前後の経緯を考慮すれば、いまだこれを以て右濫用に当る事情と目することはできないから、抗告人に右行為があつたからといつて本件申立を却下するのは相当でない。

三 以上の判断に従えば、事件本人の親権者を相手方から抗告人に変更することを求める本件申立は理由があるからこれを認容すべく、これと異る原審判は取消を免れない。よつて、家事審判規則一九条二項を適用して主文のとおり決定する。

(岡野幸之助 入江教夫 高橋欣一)

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